Episode7:毒矢のたとえ——ブッダの根本的な態度と教え


あるとき瞑想中の修行者マールンキヤプッタに次のような考えが起こった。

「いったいこの世界は永遠に続くものだろうか、それとも永遠ではないのか。世界は有限なのか無限なのか。生命と肉体というのは同じものなのだろうか、それとも違うのか。如来は死後も存在するのかしないのか、あるいは存在しながらも存在しないのか、それとも存在するわけでもなく存在しないわけでもないのか。
……そういえば我が師ブッダはこれらのことについては何も説いてはくれなかった。どうにもこれには納得がいかない。ブッダにこのことを尋ねてみよう。もし師がそれに答えられるなら、そのまま修行を続けよう。だがもし答えられないとしたら、もう修行はやめて世俗の生活に戻るほかない」

マールンキヤプッタはこのような決意をもって瞑想の座から立ち上がり、ブッダのもとへとやって来た。師にあいさつをし、片隅に座ると彼は例の疑問を師に問うた。

「師よ、世界は永遠ですか、そうではないのですか。有限ですか無限ですか。生命と肉体は同じか別か。如来となれば死後はどうなってしまうのか。
もしそれらのことを知っておられるなら、今この場で私の問いに答えてください。もしそれらのことを知らないのであれば、『私は知らない』と言われるのが正しいあり方だと思います。さあ、どうなのですか。それが分からないうちは私は修行を続けようとは思いません」

息巻く弟子にブッダはこう答えられた。

「マールンキヤプッタ、私は君にこんなふうに言っただろうか。『来なさいマールンキヤプッタ、私のもとで修行せよ。そうすれば世界が永遠か否か、有限か無限か、その他さまざまなことを教えてあげよう』と」

「いえ、そんなことはありません」

「では、君は私にこんなことを言っただろうか。『師よ、あなたのもとで修行しましょう。そうすれば世界が永遠か否か、有限か無限か、そういったことを教えてくれるでしょう』と」

「いえ、それもありません」

「それなのに、愚か者よ、君は今それを要求し、それに応じない私を拒もうというのか。世界が永遠であるとかないとか、そういったことが説かれないうちは修行しないというなら、そのことが説かれる前に人は死んでしまうだろう。

例えば、ある人が毒矢に射られたとしよう。その人の友人や家族は医者に見せて早く矢を抜き取ろうとする。しかしその本人が『矢を射た人はどんな身分か、何という名前か、どういう苗字か、背が高いか低いか中くらいか、肌は何色か、どこに住んでいるのか、それが分からないうちは矢を抜くな』と言ったらどうなるか。
あるいは、『どんな弓か、弦は何でできているのか、矢はどんなもので付いている羽はどの鳥の羽か、それが分からないうちはこの矢を抜かない』と言ったなら、どうなると思うか。その人はそれを知らないうちに死んでしまうだろう。
君が言っているのもそれと同じことだ。その答えを知る前に人は死んでしまう。

世界が永遠だと知ることで、あるいは永遠でないと知ることで、修行が続けられるのではない。世界が永遠であろうとなかろうと、人は生まれては老い、死んでいくのだ。そして悲しみや悩みや苦しみは依然としてなくならない。それらを実際に制圧することを私は教える。
世界が有限か無限か、その他の質問に関しても同じことだ。マールンキヤプッタ、私が説かないことは説かれるべきではないのだと了解しなさい。世界が永遠であると私は説かない。永遠でないとも説かない。有限とも説かず、無限とも説かない。生命と肉体は同じだとも違うとも教えない。如来が死後どうなるとも言わない。
なぜなら、そうしたことを説いたとしても修行の役に立たないからだ。世俗的な欲望を離れ、煩悩を消滅させて心に平安をもたらし、智慧によって悟りを得てニルヴァーナに至る、その目的にかなわないから私はそれらのことについては説かないのだ。

では私は何を説くのか。この世の一切は、たとえ快楽であったとしてもいつかは失われる——苦しみである。その苦しみの原因は、『私』と『私のもの』にしがみついて放そうとしない煩悩である。それを消滅させることが真の平安であり、そのためには普段の生活を調え、身口意を正しく保って、熱心に瞑想しなくてはならない。この理解こそが修行のために役立つことだ。ニルヴァーナに至るという目的にかなう。
それゆえに私は、苦しみ(苦)とその原因(集)、原因の消滅(滅)とそのための道(道)という四つの真理(四聖諦)を説くのである。このように、マールンキヤプッタ、私が説かないことは説かれるべきでないと了解し、説くことは説かれるべき内容をもっているのだと了解しなさい」

ブッダのこの言葉に、マールンキヤプッタは大いに歓喜した。疑念に捕われていた弟子は疑いの鎖を断ち切り、師の教えを喜んで受け入れた。

 

〜ブッダにまつわるその他の物語〜

 

〜ブッダの言葉〜