本当の生き方を探して

ヨーガがもたらす心の変化と理想の生き方とは――
(2006年ヨーガ・ワークショップでのスピーチより)

私がヨーガを始めたのは4年ほど前(2002年)になります。ヨーガについては何の知識もなかったのですが、職場の先輩に誘われ、健康や美容にいいのではという軽い気持ちで大阪のアーサナ・瞑想クラス(当時は西天満にあった)へ足を運ぶことになりました。アーサナ(ポーズ)を初めて体験した時は、息も絶え絶えで呼吸に集中できるどころか、どのポーズもただただ苦しかったのを覚えています。しかし、ヨーガは身体が健康になるだけではなく、呼吸を調え、さらに心も調えていくことができるということにとても魅力を感じました。何かいいものに違いない、そんな感触も受け、それから少しずつ続けていくことになりました。

当時、私はある放送局でデザイン関係の仕事に就いていました。一見華やかな職場なように思われるかもしれませんが、休日の取れないことや徹夜も多く、四六時中仕事に追われているような状態が続き、ストレスから精神的にもかなり不安定になっていました。理想の仕事を手に入れ、十分な収入もあって欲しい物も手に入れることができる。恋人や友人にも恵まれ、さまざまな最先端の情報に囲まれる中、何不自由なく満足できる環境にいるはずなのに、心の中には常に満たされない何かがありました。

そんな時、ある出来事をきっかけに身体も心も一気にバランスを崩してしまうようなことが起こりました。今まで経験したことがなかったような壁にぶつかり、しばらくその状態から抜け出すこともできず、自分の精神性の弱さを感じずにはいられませんでした。
その時、「何のために生きるのか」ということに初めて直面したように思います。ヨーガをしていたある先輩から「本当に大切なものは何か、何のために生きているのか考えたほうがいい」というアドバイスを受けたことがあったのですが、私はそれに対して全く答えることができませんでした。生きる目的ややりたい事は時とともに変わっていく、また、それは一生かけて探していくようなものじゃないかとも思っていました。しかしこれは大切な問題だから、今、真剣に考えないといけないと感じました。そうして私は自分自身と向き合わざるを得なくなったのです。

ヨーガには今まで抱えてきたさまざまな心の問題、それらを解決できる糸口があると感じていました。「何のために生きるのか」――私はその確実な答えを出したいと思い、それから真剣にヨーガを実践するようになりました。具体的にやっていったことがアーサナであり、瞑想です。最初は苦しかっただけのアーサナも、しばらく続けると呼吸の深さも変わり、終わった後には心が穏やかになって平安を味わえるようなこともありました。また歩くのもやっとというほど重かった体と心が、不思議と軽くなったような感覚がありました。自分自身に波はありましたが、確実に心が変わっていくのを感じ、それがヨーガの力を信じることにつながっていきました。
ある仕事のトラブルでいつもだったらすぐにパニックになったり、動悸が激しくなったりと心が大きく揺らいでしまうような状況の時、ふと自分の呼吸が落ち着いていることに気付き、大丈夫、平静を保てる、と客観的になって物事を対処できたということがありました。これは呼吸が安定してくると心がその影響を受けて、外からの刺激に対し動揺しにくくなってくるということを、身をもって実感した一つの例です。

そうしてヨーガを実践していくと、アーサナや瞑想をしている時間だけでなく日頃の心の状態が大事だと思うようになっていきました。体を使ったアーサナや瞑想と並行し、「私たちの心とはいったいどういうものなのか」、また「この世界で何がいったい本当のことなのか」ということも学び、考えていきました。これらも大切なヨーガの学びです。そして、絶え間なく湧いてくるさまざまな自分の思いに対して、その原因は何かということを見つめ、整理していくようになりました。そうすると今まで見えてなかったことに徐々に気付いていくようになりました。

そして、これまでずっと描いてきた理想というのは、すべて自分自身以外の何か――周りのものや人、環境など――に依存していたことが分かってきました。仕事、恋人、家族、豊かな生活……、それらは求めてもきりのないもの。どれも変化してやまないものであり、確かなものではないと思えるようになっていきました。それに自分自身の体や心も小さい頃からのことを思い返したとしても、どんどん変化していっているのです。じゃあ、この世界で変わることのないものは何なんだろう? 永遠というのはあるんだろうか? 

決して移り変わることのない「本当の自分」を見つけるということ。そして「私」というのはいったい何なのか――。ヨーガでは遙か遠い昔からそれらについて探究し、答えを見いだしてきたそうです。
「本当の自分」とは何か――。私たちの師は「答えはもうすでにここ(胸の奥)に、自分の中に在る」とよく言われます。私は漠然としていたものが、はじめて確かなものがあるんだと感じるようになりました。しかも自分自身の中にです。
しかし、「答えは誰もの中にあるけれど、ただ心がちょっとそれを邪魔をして見えなくしている」そうです。ではどうしたら見えるのか――それには心をもっともっと透明に、純粋にしていくほかありません。そしてその奥にある「本当の自分」を見つける――。これは今、まさにライフワークだと感じていて、そのことを頭で理解するのではなく、本当に体感し、知るためにヨーガを続けています。

以前は「山あり谷あり」があってこそ人生、それが人間らしいと思っていました。しかし、今はそういった浮き沈みの繰り返しを超えたものがある、それは人間らしさがなくなるのではなく、むしろ自分の変なこだわりや欲望など、背負ってきた不必要な荷物を降ろし、自由な状態で何でもできる、いきいきと生きていけることではないかと感じています。
そうして心が軽く穏やかになっていくと、周りのものや人……、すべてのものを大切にできるし、優しい気持ちになれるのではないでしょうか。これは誰もにとって自然な生き方なのではないかと思います。

これまで私自身がヨーガを続けてきた中での変化としては、これは性格だからと、私ってこんなんだ、あんなんだとずっと決めつけていた心の癖が、変えていけるものだと感じられたことです。そして大きな変化としては、どのようにに生きていったらいいのかという新たな理想が見つかったことだと思います。

目指す道があれば、その目的を達成した人から教わるのがいちばん早道でしょう。ヨーガは伝統的にも導き手が重要だといわれていますが、信頼できる師との出会いは最も大きい出来事でした。学校の勉強やさまざまな技術を習得するのとはまた違い、心を変える、そして超えていこうというのは思いもしなかった大胆なこと。それを成し遂げるには、やはりその心を熟知し、ヨーガを体得した方の下で習うことが、何より明確で確実な道だと感じます。

ヨーガというのは、続けていく中で誰もが心が変わっていくのを実感できるはず。ぜひ多くの方に体験していただきたいです。きっと新たな自分と出会え、日常が変わっていくと思います。

マードゥリー