今を生きる––カルマの法則

––常に瞬間に集中することができれば、もっと軽やかになれるのではないかと思うのですが、今を生きる秘訣をお聞きしたいです。

ヨーギー「ヨーガの重要な言葉にカルマというものがあります。これは原因と結果、あるいは作用と反作用の理のことです。特に自分の行なった行為、あるいは思い――心の中の思いも行為と見なされますから、どちらも粗大な行為、微細な行為というわけです――その行為の善悪、あるいは無知と真理に基づくものはやがて結果を招く。悪いことをすれば苦しみの結果がやってくるし、善いことをすれば楽な結果がやってくる、その果実を自らが受け取らなければならないという約束事のことです。これは宇宙的な約束のことです。人間だけではなく、あらゆるものがこの原理に従っています。
種を蒔けばそこに実がなるように、良い環境で育てば良い実がなり、そうでなければ良くない実がなるように、そのカルマの法則というものを理解するならば、一口で言うと自業自得ということになります。良いことも良くないことも、すべてその原因は自分の中にある。また未来にやってくるであろう結果も、自分が蒔いた種に違いない。そういうふうに何事も他人のせいにしない、責任転嫁をしないことですね。それでも誰もが良くありたい、幸せでありたい、自由でありたいと願っているはずですから、そうすれば自らの行為をより良くしていく他ありません。理にかなった話です。何もしないでいても誰かが幸せにしてくれるわけではありません。やはり自分が努力をしてそれに見合うもの――結果として幸せはやってきます。

そしてそのカルマという行為は、この世界においては時間と空間と、それからその時の状況とか、さまざまな条件によって成立していきます。これは物理学においても同じです。だから心の動き、心の想念というものも、ある特定の時間、特定の空間においてだけ存在しているものです。時間が一秒でも変われば、あるいは空間が一ミリでも変われば、心の様子は変化します。そういうものです。
今を生きるということは、物理学的に見ても哲学的に見ても、心理学的に見ても、まさにその瞬間に、その時、今ここに、というところだけに心を使うことです。仕事なら仕事、家事なら家事、それは何だっていいのですよ。でも心はつい昔はこうだった、ああだったと、幸せだったこと、悲しかったこと、いろんな影を連れてきてそれに浸ろうとします。これは時間のずれがありますね。現実的ではない。その時ではないですからね。反対に未来のことを煩うことも同じです。まだきてもいない未来、これは時間的な間違いが生じています。だからまずは自らの心の方向性を正しく向けておくことは大事ですね、自分をより良くしていこうという。それがなければ、安定した今に生きるということは難しくなっていきますから。ですから自分をより良くしていこう、そのためには過去や未来、さまざまな誤った想念ではなく、今できること、今、目の前にあることをやっていく、行為していく、そういうことに慣れてくれば、本当に心はいろんなプレッシャーから解放されます。はっきり言って心が重荷に感じている、あるいは心が叫びを上げるほとんどの原因は、過去に経験した記憶、そしてそれに伴う未来への不安なのですから。

カルマの法則というものを正しく理解することと、そしてそういうものに束縛されない本当の自由があるということもまた、知るべきです。それが心の奥に、誰もの胸の中にある真実です。
そのように方向付けておきながら、その時々をこなしていくということが、今に生きるということになっていきます。これも慣れていけば簡単にやっていくことができるものだと思います。たとえ嫌なことが襲ってきても、それを感じたなら、すぐさまそれは過去になっていくわけです。一秒でも二秒でも、どんどん過去になっていきますから。それに執らわれないようにしていこう――この訓練は日常生活の中で、むしろ真剣勝負のように行なわれるかもしれませんね。クラスなどではアーサナをしたり瞑想をしたりということで、それを養う、あるいはその力をつけるということになるでしょう。実践はむしろ職場の中で、あるいは生活の中で、日常の中で起こっています。そうすると本当にすべての時間がヨーガというふうに言えるかもしれません」

2006.7.23 大阪