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「新訳 ラーマーヤナ」

皆さん、こんにちは ダルミニーです。

さて、いよいよラーマ王子の潅頂式(かんじょうしき)が執り行われることとなりました。(豆知識:潅頂とは、昔インドで国王の即位や立太子の儀に、四大海の水をその頭頂に注いだ儀式のこと)

「その時、アヨーディヤーに住む人々はみな大喜びであった。すべての市民たちはラーマの潅頂式のことを聞いて夜が明るくなり始めたのを見て、街を飾り始めた。白い雲の峰のようなすべての神殿に、四つ辻に、大通りに、また祠堂や見張塔に、さらにすべての集会所や名のある樹木に、旗が掲げられ、のぼりが幸福に満ちてひるがえった。舞踏者群や歌い手たちの歌う、心や耳を楽しませる歌声が聞かれた。都民たちは、美しい都城の大通りに花や供物を飾り、白檀香や沈水香をたいた」

アヨーディヤーの都城はお祭り騒ぎです。幸福に満ちた人々や街の様子が目に見えるようです。なぜなら民衆の愛するラーマ王子が皇太子となるのですから。

「この世の高下貴賎に通じているラーマ様が我々の偉大な王となるのだ。あの方は我々すべてを幸福にしてくださる。あの方は高慢でなく、学識があり、法を愛し、兄弟を愛する方だ。しかもあのラグ王家の王子ラーマ様は自分の兄弟たちに親切であり、それと同じように我々にも親切な方だ。非難するところのない徳の高いダシャラタ王が長寿でありますように。この王の恩寵によってラーマ様が潅頂されるのを、我々は見るのだ」

このような人が日本の総理大臣になってほしいものですね。人民は安心して暮らしていけるというものです。ラーマ王子の潅頂式のことを伝え聞いて集まった地方の人々で、ラーマの都城は満ちあふれています。

ところでカイケーイー妃の母方の家のマンタラーという召使いの女が、カイケーイー妃と一緒に住んでいました。ラーマの皇太子即位の話を聞いたマンタラーはカイケーイー妃の幸福を願い、ラーマを不幸な目にあわせ、苦しめようと、寝所にいるカイケーイー妃に報告に行きます。

しかしカイケーイー妃は、喜びに心をはずませ、マンタラーに清らかな飾りの品を与えます。

「マンタラーよ、そなたが私に話してくれたことは最高の慶事です。私にとって喜ばしいことです。ラーマとバラタを私は差別していないのですよ。だから王がラーマを王位につけられることに、私は満足です。甘露のような素晴らしい話でした。最高の贈り物をあげます。好きなものを選びなさい」

その時代は良い知らせを持ってきた者に、自分の宝石などを惜しみなく与えていたようです。カイケーイー妃はなんと清らかな心の持ち主なのでしょう。それまで三人の王妃は本当に仲良く暮らし、四人の王子をみな自分の息子として育てていたのです。妬みやそねみのないラグ王家の人達、ラーマ王子もまた、三人の妃を自分の母親のよう慕い、分け隔てなく誠実に仕えていたのです。シェークスピアの物語や、中国の皇室の恐ろしい物語を知っている私たちにとっては、なんと差別のない、平和で幸福な王家なのでしょう。私の息子、私の財産、私の、私の……、このエゴのはびこる世界が私たちの今住んでいる世界です。きっと私たちはそうではない、他者の幸福を喜ぶ時代にも生きていたに違いない、そのようなエゴのない姿が、人間本来の姿であるはずだと私は信じて疑わないのです。

しかし悪事をたくらむマンタラーは、非常に悲しみ、深いため息をついて、与えられた装飾品を投げ捨て、ラーマ王子が大地を統治する時にはバラタ王子は殺されるだろうと、カイケーイー妃の心を惑わします。最初からだまそうと近づく者に勝てるわけはありません。何度もせむし女の言葉の矢に射抜かれ、傷つけられたカイケーイー妃は、マンタラーの言葉をすっかり信じこんでしまいます。マンタラーはさらに、以前ダシャラタ王が二つの願いを叶えることを贈り物としてカイケーイー妃に与えたことを思い出させ、一つ目はバラタ王子を王とすること、二つ目はラーマ王子を森に十四年間追放することを、王に要求するようにと妃に迫ります。カイケーイー妃は、せむし女の言うがままになって『怒りの間』に入り、地上に横たわります。

「マンタラーよ。私はここで死ぬと王様に申し上げなさい。ラーマが森に行けば、バラタが国土を手に入れるでしょう。私は黄金も財宝も宝石もいりません。食物もいりません。ラーマが潅頂されるならば、それは私の命の終わりとなりましょう」

その時、顔は高まる怒りの闇に覆われて、最上の花冠や装飾品をはずし、心の乱れた王妃は、あたかも闇に覆われて星がみえなくなった空のようであった。

そんなこととは露知らず、ダシャラタ王は寵愛する妃にこの吉事を知らせるため、後宮に入っていきます。カイケーイー妃は常からラーマ王子のことを、自分にとっても長男であり、威徳に輝く法の最高の守護だと、ダシャラタ王にも話していたのです。美しい妃の喜ぶ顔を見にやってきた大王、これから悪夢のような出来事が起こります。

ジャイ・シュリー・ラーマ  次回をお楽しみに

詩人ヴァールミーキ
ラーマーヤナを作成する詩人ヴァールミーキ

 ダルミニー


新訳「ラーマーヤナ」を読んで

皆さん、こんにちは、ダルミニーです。

インドにはたくさんの神様がいらっしゃいますが、ブラフマ神、ヴィシュヌ神、シヴァ神が創造、維持、破壊を司る三大神様として有名です。その中でもヴィシュヌ神は化身となって、この世の悪を滅ぼすため、降誕されていますが、ラーマ王子もその化身の一人です。「ラーマーヤナ」、ラーマの行状記は、神的英雄ラーマが魔王ラーヴァナに妻シーターを奪われ、その妻を取り戻すために戦った物語を描いた大叙事詩です。今回はその物語をご紹介しましょう。

物語の最初にこうあります。

「法と愛と利(ダルマ・カーマ・アルタ)を具えたこの物語に、清純な心で耳を傾けよ」

これがとっても大事なんですよ。清純な心で読んでね。

「サラユー川の岸に財宝は豊かで、穀物に恵まれ、人々が楽しく暮らす、繁栄した大王国があった。コーサラという。そこに世間によく知られたアヨーディヤーという都城があった。この都に、偉大な王国を繁栄させるダシャラタ王があたかも天上におけるインドラ神のように住んでいた。王はイクシュヴァーク王家の偉大な戦士で、祭式を重んじ、また法に専念する支配者であり、偉大な聖仙と同じように自己を制御し、王仙として三界にその名が聞こえていた」

とアヨーディヤーの都とダシャラタ王の素晴らしさについて、九ページに渡り書かれてあります。これを読んだだけでも、王様がどんなに徳が高く、また人々にどんなに慕われていたのかが想像できます。

ダシャラタ王には三人の善良で美しいお妃様がいましたが、子供がありませんでした。そこで王子の誕生を願い盛大な祭式を行なうと、その祭火の中から無比の輝きを具えた鬼神が現れました。

「王よ、そなたは神々に祭式を捧げたので、今日、この乳糜(ルビ:にゅうび、ちちがゆ)を得た。王者の虎よ、この乳糜は神の作られたもので、子孫を生み、幸運と長寿を増大するものだ。そなたはこれを受け取るがよい」

ダシャラタ王は大喜びで、まずこの乳糜の半分を第一王妃に、その残りの四分の一を第二王妃に、その残りの半分ずつを第二王妃と第三王妃に分け与えます。第一王妃カウサリヤー妃の息子がラーマ王子、第二王妃スミトラー妃の息子がラクシュマナ王子とシャトルグナ王子、第三王妃カイケーイー妃の息子がバラタ王子です。ラーマ王子は第十二月目のチャイトラ月の第九日(三月二十四日)に生まれたとあります。

4人の王子が生まれたとき
(4人の王子が生まれたときを描いたもの)

ラーマ王子は傲慢な魔王ラーヴァナ征伐の為、神々に強く望まれて人間界に生まれた永遠のヴィシュヌ神の化身なのです。魔王ラーヴァナは本当に悪い奴でして、エゴと無知の象徴として描かれています。私たちの中にあるエゴと無知もラーマ王子が一緒に征伐してくれているような痛快さがこの物語にはあります。

そしてラーマ王子の美徳についてこうあります。

「ラーマ王子は実に容姿端麗で、勇気があり、悪口を言うことなく、この地上において比類のない方で、美徳の点では父ダシャラタ王に劣らぬ息子であった。師に対する信愛の念があつく、聖典知を離れること無く、不正なことを指示することなく、愚かな言葉を口にせず、教典に精通し、恩義を知り、人の心にある願いを察することができて、処罰と表彰とを正しく識別できた」

と、これもまた三ページに渡って讃えられています。ヴィシュヌ神の化身として生まれたラーマ王子は、褒めても、褒めても褒めすぎるということはないのでしょう。これを読んでいるだけでも、心は喜びに満たされます。このような美徳に輝く姿が人間の本来の姿ではないのでしょうか。このような理想の人間になりたいと、憧れが強くなります。

威厳があり、威光に輝く、人中の雄牛ともいうべき四人の王子たちはダシャラタ王に大事されていましたが、とりわけ偉大な威光に輝き、優れた美徳を具えたラーマ王子は父王に喜びを与えていました。

ある時、王様は深く考えました。

「私が生きている間に、ラーマが王となるのはどうであろうか。これは喜ばしいことではないか」

こうして大臣や都の住民、諸国の王を招いて、ラーマを王位継承者とする諮問が行なわれ、ラーマ王子が皇太子の地位に就くことが決まるのです。しかしここからイクシュヴァーク王家の悲劇が始まります。カイケーイー妃の召使い、せむし女のマンタラーが悪知恵を働かせて、王妃の心を惑わし、自分の愛するバラタ王子を皇太子とするべく策略を練るのです。

なんと今回は、ここまでで終わってしまいそうです。次回はカイケーイー妃の息子バラタ王子についてご紹介したいと思います。ラーマ王子と共に魔王ラーヴァナを征伐したラクシュマナ王子は有名ですが、このラクシュマナ王子と同じ神の資質を具えたバラタ王子のことは、あまり皆さんご存じないのではないかと思います。これが涙なくしては語れない物語でありまして、ぜひみなさんにご紹介したいと思っています。

では、次回「ラーマーヤナ バラタ王子の苦悶」、お楽しみに。

 ダルミニー