アーナンダのさとり

みなさん、こんにちは

今日もまた本願寺出版社の「ブッダ」をお伝えしたいと思います。

悟りを啓かれてから四十年以上もの間、真実のみを語り、人々に教えを説いてこられたブッダでしたが、ヴァイシャーリーで自らの死期を悟り、アーナンダを伴って最後の旅に出たのでした。

小康状態を保っていた病状はクシナガラで一気に悪化した。「アーナンダよ、私のために床を用意してくれ」アーナンダは言いつけられた通りに沙羅双樹のもとに床を設えた。ブッダは頭を北に向け、右脇を下にして横になった。

その頃、クシナガラに住む遍歴行者のスバドラは声を聞いた。

「今夜、修行者ガウタマが亡くなるだろう」急がなければ、とスバドラは思った。「今、この時を逃せば、私はもう二度と真実の教えを聞くことはできないだろう。修行者ガウタマこそ、私に道を説くことができる唯一の修行完成者にちがいないのだから」こうしてブッダのもとに赴いたスバドラは、ブッダから真実の教えを授かり、最後の直弟子となった。

ブッダは力尽きたようにぐったりと横になっていた。すでに大勢の修行僧が噂を聞きつけて、ブッダの周囲に集まり始めていた。未熟な修行僧たちは嘆きや悲しみを声に出し、体で表していたが、熟達した修行僧は感情を抑えて、無常の真理をかみしめながらブッダを見守っていた。アーナンダはブッダとの別れが辛く、悲しく、声を殺して泣いた。

「やめなさい、アーナンダ。悲しむな、嘆くな。お前にはもう話したはずだ。愛しいもの、好きなものとも別れ、離れ、生存の場所を異にしなければならない。およそ生じたもの、作られたもの、存在するものは壊れ去る。その理から逃れるものはない」

そのあとでブッダはそっとアーナンダに耳打ちをした。

「お前は特に婦人に人気がある。よく気を付けて、慎みなさい」

アーナンダはブッダの言葉をしっかりと脳裏に刻み込んだ。長年の修行の間に聞いたブッダの言葉は、ひとつとして逃がすことなく記憶に残っていた。その言葉のどれもが金色の清浄な輝きを放っている。

ブッダ (26) 

しばらくの沈黙のあと、ブッダは集まった修行僧たちに最後の言葉を告げ、完全なる涅槃に入っていった。

修行僧たちよ、すべての営みはうつろい、過ぎ去っていく。ひとときも怠らず、修行に励みなさい。

 

ブッダの葬儀後、長老たちが集まり、今後の教団運営について話し合った。長老として長らく教団を率いてきたシャーリプトラとマウドガリヤーヤナの二人はすでに亡く、マハーカーシャパが長老のまとめ役となっていた。

「ブッダの教えと戒律がどのようなものであったのか、確認しておかなければならない。無用な混乱を避けるためにも」

教えについては、二十五年間ブッダの側にいたアーナンダにその大役が任ぜられた。悟りを啓いていないアーナンダは、その日までに悟りを啓くよう、マハーカーシャパから言い渡されたのだった。

早く悟りを啓かなければ、大事な役目を充分に果たせない。アーナンダは心を静めてブッダの言葉を思い起こす作業に没頭した。しかし結集前夜になってもアーナンダは悟りを得ることができなかった。自分は至らなかった。けれど、明日は自分ができる精一杯のことをしよう、私には力はなくとも、ブッダの言葉には力があるとアーナンダは思った。

床に就こうと目を閉じた瞬間、ブッダの声が聞こえた。

「アーナンダよ、お前は善いことをしてくれた」

心に染みこんでくる懐かしい声だ。ブッダよ、アーナンダはこみ上げてくる涙を抑えてつぶやいた。ブッダは常に暖かく見守ってくださった。自分の至らなさで迷惑をかけたし、心を煩わせるばかりだった。けれど、ブッダは大いなる慈悲で包み込んでくださった。

「お前は善いことをしてくれた」

自分は善いことなどひとつもできていない。それでもなおブッダは、お前は善いことをしてくれたと声をかけてくださるのだ。私はもう迷うのはやめよう。ふっと全身から力が抜け、こわばりが取れた。自由な、軽やかな心持ちになった。翌日、アーナンダは大いなる慈悲に包み込まれている喜びを感じながら、清々しい気分で結集の場に立った。

「私はこのように聞きました。ある時、ブッダは……」

スバドラの逸話からは、本当に最後の最後まで、人々の苦を滅するためだけのために、真実を説いておられるブッダの姿が胸に迫ります。さまざまなカーストの弟子たちを平等に見て導いてこられたブッダ、雨の日も風の日も動じることなく托鉢に出られるブッダ、人々の話を真摯に聞き、誠実に教えを説かれるブッダ、いつも穏やかでにこやかに微笑まれるブッダ、二十五年間、ブッダの側にいたアーナンダでしたが、苦しむ人々のため真実を説かれ続けた、血の通った人間ブッダのお姿、いつも愛深く見守ってくださっていた師のお姿そのものが、アーナンダの心の目をひらかせ、悟りへと向かわせたのだと思いました。ブッダは偉大なヨーギーであったと私たちの師は教えてくださっています。時空を超え、ブッダは今も私たちの側にいて、優しく見守り、助けてくださっている、そんな安心感を胸に覚え、私はこの本を読み終えたのでした。

ダルミニー

 


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